2015/02/06

上野星矢フルートリサイタル(2015年東京公演)

凄いものを聴いてしまった。

【上野星矢フルートリサイタル 東京公演】
出演:上野星矢(フルート)、内門卓也(ピアノ)
日時:2015年2月5日 19:00開演
会場:白寿ホール
プログラム:
フランシス・プーランク - 廃墟を見守る笛吹きの像
アンドレ・ジョリヴェ - リノスの歌
ピエール・ブーレーズ - ソナチネ 
ベーラ・バルトーク - 15のハンガリー農民の歌 BB79/Sz.71
セルゲイ・プロコフィエフ - フルート・ソナタ ニ長調 作品94
ポール・タファネル - 魔弾の射手による幻想曲
尾崎豊 - I Love You(アンコール)
松任谷由実 - 海を見ていた午後(アンコール)
松任谷由実 - 春よ来い(アンコール)

昨年、リヨン歌劇場管にゲスト主席フルート奏者として客演したという話を聞き、気になっていた奏者。中学生の頃にはリサイタルを開催、藝大在学中に、J.P.ランパル国際コンクール優勝、パリ国立高等音楽院に留学し(だれに師事したのかな)、審査員全員一致の一等賞ならびに審査員特別賞を獲得して卒業…という、絵に描いたようなエリートコースを突き進んでいる演奏家である。その経歴に違わぬ、いやむしろその経歴すら意味をなさないほどの、素晴らしい演奏であった。

会場となった白寿ホール(白寿生科学研究所なる会社の付属ホールなのだそうな)には初めて入ったが、素晴らしい内装や音響が、コンサートの非日常感を演出していた。

なんだかフルートを聴いた、という感じがせず、純粋に音楽聴きました、という聴後感。まさに新世代の演奏家だ。堅牢なフレーズの保持力、ヴィブラートの使い分けを含む多彩な表現、高音から低音まで均一なパワー、初めて体験するほどのダイナミクス、そして何より輝かしい音色を武器に、重量級のプログラムを見事に吹ききっていた。

特に、第一部の印象は筆舌に尽くし難い。それでも敢えて書くならば…ジョリヴェ最終部の、細かいフレーズが幾重にも重なってゆくように錯覚するほどの音運び。また、曲の持つ世界観のせいか、聴き手を縛り付けて離さないような"強い"演奏だと感じた。バルトークは、上野氏のフルートの圧倒的なまでの表現力の豊かさを感じた。音符的には決して難しい作品ではないと思ったが、楽章ごとのスタイルの吹き分けの多彩さ・幅の広さに驚く。また、細かいアゴーギクやバランスの取り方等、ピアノとのアンサンブルの妙にも強い感動を覚えた。ブーレーズは、個人的には本日の白眉。呆れるほどのテクニカルなフレーズも飛び出し、人間業を超えた作品を、高い集中力で吹ききっていた。知らず知らずのうちに私自身も緊張し、聴き終わった瞬間に、思わず動悸が…。

ところで、ブーレーズの作品は、ほぼ初めて聴いたような作品だったが、実に面白い。作品自体は、12音技法のお手本のような(さらに突き進み、トータル・セリーの萌芽が一部に見られるほど)作品ながら、透明感のある響きが大部分を占める。さらに、時折現れるピアノのグリッサンドからは、実に"甘い"響きを感じた。中間部以降ではロックとでも形容してしまえるような高速なリズム…どこまでも続くと思われるような長大な…は、フルート、ピアノともども超高度なソルフェージュ能力を要求されること請け合いだが、ピシャリと決まればこれほどかっこいいことはないだろう(今日もそうだった)。

第二部は、第一部に比べればかなりリラックスした雰囲気があったが、それでも強靭な上手さを誇る。プロコフィエフにおいて、徹頭徹尾高尚な音楽表現から崩れなかった様子には、会場がとても沸いたし、タファネルに至っては19世紀ヴィルトゥオーゾ・スタイルの作品そのものを、わかりやすく楽しく、また暗譜で一気に吹ききっており、プログラムの最後にふさわしい盛り上がりをみせた。いやはや、素晴らしい。

アンコールは、日本の歌謡曲を3曲ほど。こうしたメロディ先行型の作品でも、嫌味にならないのは才能ですね。「海を見ていた午後」での、極小ppの響きには、しびれる。

また、全般を通してフルートの素晴らしさのみならず、ピアノの内門さんの素晴らしさも際立っていた。特に、ブーレーズ作品やプロコフィエフでの処理能力の高さ、タッチの多彩さなど、アンサンブル・ピアニストとして大成しつつある、そんなところを見通すことができるような演奏だった。東京藝術大学出身で、なんと大学での専門は作曲だそうで、作曲家ならではの高いソルフェージュ能力やアナリーゼ能力が、そのまま演奏に反映されているのかなあと、そんなことも思ったのだった。

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