2013/03/16

須川展也「ARIAS(アリア)」

だいぶ昔になるが、ヤマハの方に送っていただいた須川展也氏のCD。これからサクソフォンを始める方が、「何かおすすめのCDないですか」と聞いてきた時には、演奏・曲目・入手のしやすさなどの理由から、このCDをオススメすることにしている。

「ARIAS(Avex AVCL-25192)」
須川展也(サクソフォン)
金聖響指揮 東京交響楽団
G.カッチーニ/朝川朋之 - アヴェ・マリア
C.サン=サーンス/加藤昌則 - あなたの声に心は開く(歌劇「サムソンとデリラ」)
V.ベルリーニ - 清らかな女神(歌劇「ノルマ」)
G.プッチーニ/伊藤康英 - トスカの接吻
G.プッチーニ - 私のお父さん(歌劇「ジャンニ・スキッキ」)
G.プッチーニ - 誰も寝てはならぬ(歌劇「トゥーランドット」)
E.モリコーネ/長生淳 - ガブリエルのオーボエ(映画「ミッション」)
G.フォーレ - ピエ・イェズ(レクイエム)
加藤昌則 - スロヴァキアン・ラプソディ
朝川朋之 - セレナード

このCDの購入を検討したとき、タイトルの「アリア」や収録曲から受けるイメージは…比較的ゆっくりとした曲ばかりと思い込んでしまい、なかなか購入に踏み切れなかったのを思い出す。やはりサクソフォンのCDであるならば、機動性を活かした演奏も聴きたい、と思ってしまったのだ。しかし、実際に聴いてみると実に面白いアルバムに仕上がっていると感じた。

サクソフォンのモノローグから始まる1曲目、「アヴェ・マリア」からグッと引き込まれる。美しい音色、ヴィブラート、歌心。シンプルなメロディだけに聴かせるのは難しいが、ゆっくりした作品をこのように抜群のセンスで演奏することこそ、須川さんの最大の個性だ。オーケストラとともに奏でられる息の長いメロディなど、涙が出てしまうほどだ。

続く2曲も同一の傾向だが、オーケストラもきちんと弾いていることに妙に感動を覚える。さすが国内オケ、ムラなく良い仕事をするなあ(笑)ソロ・コンサートミストレス(クレジット情報にはソロ・コンサートマスターとある)の大谷康子氏が要所で奏でるヴァイオリンソロも絶品だ。

そして4曲目、伊藤康英先生の「トスカの接吻」がガツンと響く。オーケストラの強奏に続いて大見得を切るサクソフォンのカデンツァは圧巻で、この部分だけでも聴く価値はあるだろう。原曲、アレンジ、演奏者の三位一体の幸福な瞬間だ。デザンクロ「PCF」のカデンツァのようなフレーズが聴こえるのは気のせいだろうか…。オーケストラとサックスが官能的に呼応し、最後はクライマックスに達して素晴らしいエンディングを迎える。

再び緩徐トラックとなるが、特に「私のお父さん」や「ガブリエルズ・オーボエ」などの世界屈指の美しいメロディが次々と歌われ、全く飽きることがない。

加藤昌則「スロヴァキアン・ラプソディ」は、超絶技巧を織り交ぜながら、須川氏の魅せどころのツボをこれでもかというほど押さえた作品で、聴いていてとても興奮した。時には激しく、時には楽しく、時には甘く、様々な場面を見事に表現している。終盤の、大衆的娯楽趣味と荘厳さが入り混じった仕掛けは、これはサクソフォンならではのものであろう。

最後はやはりとても美しい「セレナーデ」でクールダウン。いやはや、完璧。

ということで、非常に素晴らしい内容。「アリア」というコンセプトだけ眺めて敬遠気味にしているのは、もったいないと思うのだった。甲種推薦盤!Amazonでの購入リンクはこちら→こちら

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