2012/11/19

菊地麻利絵さんリサイタルの録音

菊地麻利絵さんにお願いして、このリサイタルの録音を頂戴した。とても興味深い(そしてヘヴィな!)プログラムだったのだが、さすがに平日昼間ということで伺えず悔しい思いをしたのだった。

菊地麻利絵(sax)、大嶋千暁(pf)
J.ドゥメルスマン - オリジナルの主題による幻想曲
F.デクリュック - ソナタ嬰ハ調
J.リュエフ - ソナタ
R.ロジャース - レッスンズ・オブ・ザ・スカイ
I.ダール - コンチェルト

やや音場は遠く細部は聴き取りづらいものの、全体的な雰囲気はよく分かる。実は菊地さんの演奏を聴くのは初めてで、どのような演奏をするのかとても興味があった。なんとなくお会いして話した時の印象から、こんな感じかなあと思っていた想像を(良い意味で)根本から覆されてしまった!

まず印象的なのは、強烈なダイナミクス。あのスラリとした雰囲気のどこからこの豊かな音が出てくるのだろうか。そして、特に急速楽章でのテンポ設定はどうだろう。「えっ、ここまで!?」という、崩れるか崩れないかギリギリのところで勝負をかけるその姿勢は、ライヴだから、という理由ではすまされないだろう。しかし、緩徐楽章では深いロマンティックさも存分に感じられる。ひとつひとつの曲の中での、その激流から大河までのような幅のある変化が、結果的に聴いていてとても演奏を魅力的なものにしていると思う。

いやー、びっくりした。まあこれだけの演奏をするからこそ、最優秀の成績を得てこのリサイタルの機会を勝ち得た、ということなのだろうが…。音大生にもいろいろな方がいると思うのだが、トップの位置を張っている方たちは凄い。一曲一曲終わったあとの客席からの熱心な拍手が、その時のホールの中の空気を表しているようだ。

テクニック的にも安定しており、ドゥメルスマンはとても気に入った。大嶋千暁さんのピアノも相変わらずの好サポート。デクリュックはちょっと元気が良すぎるような気がしなくもないが、第4楽章での自身の内面を掘り下げていくような疾走感には興奮した。リュエフも安定のテクニック。ここまでで相当お腹いっぱいだが、さらに難曲ロジャーズ&ダールも吹きこなしていく。ソプラノのやや金属的で輝かしい音色を聴いて、ジョン・ハールに献呈された作品の演奏をばりばりのグロウ付きで聴いてみたいとも思った(ウェストブルックの「ビーン・ロウズ・アンド・ブルース・ショッツ」とか)。また、ダールも鬼気迫るもので、珍しく「怖い」という感想を持ってしまった…いやはや。

ご本人は「ところどころとっ散らかってしまった」とおっしゃっており、確かに小さなミスは所々にあるものの、それを補って魅力的な部分が多い演奏をされるのだなあと思った。簡単な曲を無個性で予定調和的に吹くだけの演奏家よりも、ずっと好きだ。楽章をまたいだ時の、一曲全体の構成感をどう作り上げていくかといったところを、さらに聴いてみたい(偉そうなこと書いてすみません)。

菊地さんは現在東京音楽大学の4年生。今年度いっぱいで大学を卒業するが、さらに来年度もひき続いてサクソフォンの勉強に取り組み続けると伺っている。いつになるかはわからないが、ライヴで聴ける機会を楽しみに待ちたい。

0 件のコメント: