2012/04/27

Claude Delangle - Musique francaise pour Saxophones

クロード・ドゥラングル Claude Delangle教授のアルバムといえば、BISから出版されている一連のアルバムが有名だが、Vandorenから2枚出版され、しかもその両方とも素晴らしいことをご存知だろうか。特にオススメなのが、「Musique francaise pour Saxophones(Vandoren V 001)」である。もともとは、Chant du MondeからLDC 278 878という型番で出版されていたアルバムであり、再発モノなのだが、奇跡的な完成度を誇る盤として、多くの人に聴かれるべきだ。

Darius Milhaud - Scaramouche
André Jolivet - Fantaisie-impromptu
Florent Schmitt - Légende, op.66
Charles Koechlin - Etudes 1,2,3,8,10,13
Charles Koechlin - Epitaphe de Jean Harlow
Gabriel Pierne - Introduction et Variations sur une ronde populaire
Florent Schmitt - Quatuor, op.102

ピアノは奥様のオディール・ドゥラングル Odile Delangle女史、2曲だけ収録されている四重奏曲は、ドゥラングル教授がかつて結成していたカルテット、Quatuor Adolphe Sax(Claude Delangle, Jean Paul Fouchecourt, Bruno Totaro, Jacques Baguet)の演奏である。あの著名なオペラ歌手、フーシェクールがサクソフォンを吹いたアルバムとして、オペラファンかつ好事家も、手に入れておいて損はないことだろう。

一言で表すならば「耳を洗い直される」アルバムである。冒頭のダリウス・ミヨー「スカラムーシュ」を聴いてみよう。我々、いちクラシック・サクソフォン・ファンが「スカラムーシュ」と聴いた時に無意識に持つ「このくらいの速度、このくらいのテンション、このくらいの音色、このくらいの…」という一連の想定を、全て外してくる演奏なのである。そして、その外れた先が何物でもない、これこそが本当のスタンダードなのかもしれないと思わせてしまうのだから、すごい。パリ国立高等音楽院の教授に就任する2年前、1986年の録音である。21世紀に入ってからの録音と言われても、納得してしまうかもしれない。

すべての演奏曲目で、このクオリティを維持する。ケックランの「エチュード」など、間違いなく世界最高の演奏である。これ以上の演奏を、CDなり実演なりで聴いたことがない。ピアノパートも含めて、この解像感の高さは驚異的である。続いて演奏される「ジーン・ハーロウの墓碑銘」の甘いフルートの音色は、妙に甘ったるく、CDのなかではちょうど良い休憩ポイントとなる。

ピエルネとシュミット、サクソフォン四重奏の傑作2作品の演奏も、面白い。隅々までリハーサルを重ねた燻銀的な演奏。ヴィブラートのひとつひとつまでコントロールされている。まさかデファイエ四重奏団が現役の時代に、このような録音が世に出ていたとは…。ハバネラ四重奏団への直接的なリンクを感じる。

おそらく当時は異質だったと思われるこのスタイルの演奏だが、現代にあってはトレンドとなっている。世界中の多くの奏者が、ドゥラングル教授が創り上げ醸成したこの演奏スタイルに倣って、日々演奏しているのだ。そう考えると、何かとてつもないスケール感の大きさを感じないだろうか。この一枚のCDが、世界を(10年後に)席巻した原点となっているのだ。ドゥラングル教授は、もしかしたらそこまでも見据えて録音を作ったのかもしれない。原盤のレーベル名"Chant du Monde"というのもすごい名前だ(笑)。

国内での入手は難しいが、フランスのVandorenから安価に購入可能。

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