2010/09/30

MAを聴いて考えたこと

昨日は、記事でも紹介したMA Ensembleの演奏をじっくりと聴いていた。MAの精緻な響きに慣れてしまうと、それから数時間はいわゆる一般的なクラシック・サクソフォンの響きは甘ったるく感じてしまい、素直に聴けなくなってしまった。おかげで、MAに続いて、ユニー・アクセルソン演奏のシュトックハウゼンの「コンタクテ」を聴きながら眠るはめになってしまったのだが…。

(MA Ensembleの入手先、昨日の記事にさらに追加しました。探してみれば、あるところにはあるものだ)

普段サクソフォンばかり聴いていると耳が慣れてしまうものだが、やはりサクソフォンの「音」それ自体が持つパワーは、あらゆる管楽器の中でも、最高クラスに位置するものだと思う。「ボレロ」でテナーサクソフォンが登場したときの衝撃といったら大層なものだし(そもそも「ボレロ」は、ひとつメロディが進むごとに、それまでのソロはなんだったのだ、という設計がなされているが、それにしてもテナーの存在感は抜群だ)、「アルルの女」の"フレデリの動機"や"間奏曲"を、果たしてサクソフォン以外のどの楽器に置き換えることができるだろうかと考え込んでしまうし、たまに他の管楽器と室内楽を組んだときの、あのアンバランスさと言ったら…などなど、挙げてゆけばきりがない。

サクソフォンが持つこの性格は、他の楽器による緻密な室内楽などを聴いていると、ある種の「コントロールを逸脱した収まりの悪さ」を感じさせる。サクソフォンは、サクソフォンとしかソノリテが溶け合わないのだ。普通に"室内楽"という観点から考えれば、サクソフォンとピアノのデュエットですら奇怪なものに映る。ピアノの単独の音、サクソフォンの単独の音を2つそれぞれ思い浮かべたときに、それらが五分五分でお互いを立てながら交わす響きを想像できるだろうか?それに成功している演奏・録音を、私はほとんど聴いたことがない。いろいろと考えを巡らせていくと、作曲家の多くがサクソフォンを敬遠する理由も判ってしまう気がする。

演奏スタイル、プログラムともに、禁欲的な場所で勝負をかけることは、この時代にあっては難しそうだ。そういった部分を極めようとする演奏家が現れることは、これから先果たしてあるのだろうか?

2010/09/29

= Today (MA Ensemble)

これまでも何度かブログで取り上げたが、21世紀に入ってリリースされた室内楽のCDで「最高の一枚」と言い切ってしまいたいアルバムがある。私はそれほど(ピアノ+サクソフォン、サクソフォン四重奏以外の)室内楽に精通しているわけではないし、いわゆる一般的なクラシック音楽を普段から真面目に聴いているわけでもないので、もしかしたら「最高の一枚」という考えも見当はずれなものなのかもしれないが、いや、それでも自分の耳を信じて推したいアルバムだ。Amazon.co.jpAmazon.co.ukAmazon.deAmazon.frで購入可能となっているようなので、再び取り上げた次第。

Ma Ensemble…おそらく日本でこの室内楽団の名を知る方はほとんどいないことだろう。スウェーデンを発祥の地とするアンサンブルで、例えばアンサンブル・アンテルコンタンポラン Ensemble Intercontemporainとか、アンサンブル・モデルン Ensemble Modernあたりと似ている、と言ってしえば、団体のコンセプトはお判りいただけることだろう。1987年に、スタファン・ラーション(指揮、ヴァイオリン)を筆頭に、アントン・ヴェーベルンの「四重奏曲,Op.22」を演奏するために結成され、以来メンバーを追加しながら活動している現代音楽アンサンブルである。Maとは、Todayという意味のハンガリー語なのだそうで。

私はCDを2枚持っているだけだが、そこから聴きとることができる演奏の特徴といえば、緻密で精緻なこと、そして音色が美しいこと。北欧のアンサンブルだからだろうか?(と言ってしまう時点ですでに先入観に染まっているが)。ディスク全体が、限りなく透明な水晶で形作られているような、そんな音。硬質だが、同時に不思議としなやかさをも感じさせる。

「MA(Nytorp Musik Nytorp0001)」は、彼らのデビューアルバム。Nytorp Musikという個人経営のマイナーレーベルについては、いくつかの質の高い録音をリリースしていたようだが、その後やむなき(家庭内)事情により活動を停止している。活動停止後、多くのディスクが現在では入手困難となっており、残念だ。

このたった1枚のアルバムからも、Nytorp Musikのアーティストへのこだわり、録音へのこだわり、装丁へのこだわりが伝わってくる。録音はおそらくワンポイント(エンジニアはCirrus RecordingのHans Larsson)だが、異常なほどの解像感と、まるで奏者の前に一本一本マイクを置いたような各楽器の分離が心地良い。ジャケットやライナーノーツのデザインも秀逸。こんなクールなデザインのジャケットが、未だかつてあっただろうか!?

A.Schönberg - Pierrot Lunaire, op.21
C.Larson - Väsen
C.Larson - Cordes et Tuyau
A.Webern - Quartett, op.22
P.Boulez - Dérive

「月に憑かれたピエロ」は、私もいくつか録音を聴いたことがあるが、最高の録音だと断言して良いと思う。どの曲の演奏にも一貫して言えることだが、Ma Ensembleの演奏の最大の特徴こそ"冷たさと温もりの同居"なのだ。透明度の高い音色と申し分のないテクニックで存分にアピールするのだが、その中に聴き手を突き放すような高飛車な態度は全く感じられない。「こっちへおいで、一緒に響きを楽しもうよ」と誘いを受けているかのようだ。

サクソフォン的興味としても、クリカン・ラーション「Väsen」とアントン・ヴェーベルン「四重奏曲」が挙げられる。どちらの作品にもクリステル・ヨンソン Christer Johnssonがテナーサクソフォンで参加しており、素晴らしい音と音楽性で存在感を示している。ヴェーベルンの「四重奏曲」は、素晴らしい録音が多くて、どれも大好きで困ってしまう(他に、クロード・ドゥラングル教授、ミーハ・ロギーナ氏、ヴァンサン・ダヴィッド氏、カイル・ホーチ氏など)のだが、ううむ、なぜかここに戻ってきてしまうのだよな。不思議。

ところで、私ごときがレビューを書かずとも、大丈夫なのだ。ぜひ、ノルディックサウンド広島のスタッフが書いたレビューも、併せて読んでいただきたい。きっと興味がわいてくるはず。

2010/09/28

ミシャ氏のウェブ上コンテンツ

昨日の記事で、ジャン=ドニ・ミシャ Jean Denis Michat氏の演奏動画について紹介した。昨日の記事を書いたあと、ミシャ氏の公式ページ上を散策していたところ、サイト上に非常に有用なコンテンツが多く置かれていることに気付いた。今日の記事では、そのコンテンツについて紹介したい。

コンテンツは、ミシャ氏の公式ページから「FREE」というボタンをクリックし、さらに左のメニューからカテゴリを選択することで入手のページへたどり着くことができる。ここに用意されているのは、ミシャ氏がアレンジした楽譜、ミシャ氏の録音、演奏ビデオ、などである。冒頭に置かれた但し書き「Je ne sais pas si c'est vraiment un cadeau (;-))...mais disons que si ça peut servir...」が、ちょっとエスプリが効いていて良いな。

例えば、「Audio」をクリックしたその先のページから入手できる演奏は、ミシャ氏が2004年に録音したファリャ、グラナドス、アルベニスの作品で、これはおそらく「Cantos de Espana(JDM003)」というタイトルで発売が予定されていたレコーディングだと思う。MP3の32Kbpsということで音質は良いとは言えないが、素晴らしい演奏を堪能することができる。例えば、アルベニス作品における驚異的なソプラノサクソフォンのコントロールなどは、まさに一聴の価値ありだ("アストゥリアス"のスーパー技巧!)。

「Videos」をクリックして観られるビデオのページでは、バッハの「二重協奏曲」、モーツァルトの「オーボエ協奏曲」などの演奏を観ることができる。バッハの「パルティータBWV1013」もある…ということは、昨日紹介したものと同一内容であるようだ。コンテンツの重量を軽くするためだろうか、画質は落とされているが、音を聴くだけとはひと味もふた味も違ったものがある。中には、BGMを付けたフォトアルバム(?)のような動画もあり、これはこれで楽しい。

「Ensemble」「Sonate」「Musique de Chambre」は、楽譜のページ。ミシャ氏が作曲/編曲したサクソフォンのための楽譜を数多く手に入れることができる。例えばグリーグ「ホルベルグ組曲」のラージアンサンブル楽譜だったり、Audioのセクションで聴くことができるアルベニス作品のトランス譜だったり、モーツァルトの四重奏曲だったり、ハッピーバースディの曲だったりと、とにかく充実した量に驚く。

本来であれば、有料だとしてもおかしくない上記コンテンツ群を、インターネット上で、誰もが利用できる形で公開してくれることは、我々のような消費者にとっては非常に嬉しいことだ。こういった取り組みは、サクソフォンの世界ではまだまだ多くない。例えば、ある音楽家が差別化を図るためにアレンジ譜や録音を有料化したり、門外不出としたりするのは、もちろんそれはそれで必要なことである思うが、もし何も目的がないまま有用なコンテンツが宙に浮いていたとしたら、それはとても勿体無いことだと思う。そういった眠れるコンテンツ(?)については、ぜひとも無償なり有償なりでの公開を進めてほしいものだ。

2010/09/27

Michat plays Bach on YouTube

ジャン=ドニ・ミシャ Jean Denis Michat氏が、ヨハン=ゼバスチャン・バッハ Johann Sebastian Bachのフルートのための無伴奏パルティータBWV1013を演奏している動画を、YouTube上で見つけた。演奏しているのは、第3楽章のサラバンド。バロック、古典作品などのアレンジ作品に関する演奏には定評があるミシャ氏。さすがの演奏だ。



この曲の演奏がCDにも収録されていることは、以前…といってもずいぶん前だが、このブログでも紹介した。このCDに収録されている演奏と、YouTubeの演奏とを聴き比べてみたが、全体的な構成感は近いものを感じた。テンポはやや違うが。個人的には、YouTubeの演奏のほうが好き。ひとつひとつの音に、よりしなやかさが加わっている感じを受ける。

演奏者としても、作曲者としても(Massive Hakaとか)、リヨン音楽院の教授(つい先日パリ国立高等音楽院に合格された、井上ハルカさんの師匠である)としても有名なミシャ氏。一度ライヴで演奏を聴いてみたいのだが、なかなか機会がなさそうだなあ。せめてCDだけでも手に入れたい…のだが、3rdアルバムはレコーディングされたっきり宙に浮いているみたいだし、うむむ。やっぱりフランスのサクソフォン情報を、日本にいながらにして完全に捉えきることは難しい。

2010/09/26

南与野で練習

南与野にて、10月の本番の練習。サクソフォニーのメンバーによる四重奏。この練習場は初めてだったが、新しい建物でびっくり!モダーン。

取り上げた曲の中で難しいのはロベール・プラネルの「バーレスク」。リズム遊び・拍子遊びを噛み砕けるくらいに演奏できれば良いのだけれど、なかなかそうはいかないな。個人的にもう少し慣れが必要かも。今回は30分ほどのステージであるので、最後の「日本の四季(およそ13分)」に向けて上手に体力を配分しなきゃ。あと2回の練習でどこまで持っていけるかな。

That's Saxophone Philharmonyのアンサンブルコンサート

9/25は、That's Saxophone Philharmonyさんのアンサンブルコンサートにお呼ばれして、Tsukuba Saxophone Quartetとして一曲吹いてきた。私が大学一年生の時に、大学の吹奏楽団の第50回記念演奏会にOBとして出演されていたThat'sのKさんに、今年4月のサクソフォン交流会で再会したのが、そもそものきっかけでお声がけいただいた。KさんにもThat'sの他のみなさんにも感謝!である。

10時に会場の国立オリンピック記念青少年総合センターに集合し、練習室を割り当てていただいてゆっくりとリハーサル。自分たちの演奏会でないと、準備の時間帯もなんだか気楽だ。ということで、申し訳ないくらいお世話になりっぱなし。練習室音出しのあとの、ホール音出しの時間も25分間も頂戴して、響きをしっかりと確かめることができた。

開場前にお昼ごはんへ。近くにあったラーメン屋さんに入ってみたのだが、出てきた汁なし坦々麺(?)が妙に辛かったのにはマイッタ。胃の中が熱い状態のまま、開演。第1部は、ほぼ全て客席で聴くことができた。

【That's Saxophone Philharmony 第6回ソロ・アンサンブルコンサート】
日時:2010年9月25日 14:00開演
会場:国立オリンピック記念青少年総合センター カルチャー棟小ホール
プログラム:
~Solo & Quartet Stage~
P.Maurice - Tableaux de Provence Mov.4,5
J.M.Leclair - Sonate en Ut
P.Lantier - Andante et Scherzetto
P.Iturralde - Suite hellenique
G.Piérne - Introduction et Variations sur une ronde populaire
J.Rivier - Grave et Presto
~Guest Stage~
J.S.Bach - Chaconne from Partita No.2 for Unaccompanied Violin (Tsukuba Saxophone Quartet)
T.Muramatsu - Far Away (Espoir Saxophone Orchestra)
~Large Ensemble Stage~
T.Honda - Higgledy-Piggledy
S.C.Foster - Beautiful Dreamer
T.Honda - Music for Cinema

普段ラージで活動されている方々が、こうやってソロを演奏したり、四重奏を組んだ時でも見事な演奏を繰り広げてしまうのは、それだけ演奏の地力が高いということだ。しかも、ちょっと簡単な曲…という感じではなく、どれも四重奏の王道と呼べる作品ばかりを、高いレベルで演奏してしまうのは凄い!ピエルネとか、Tsukuba Saxophone Quartetでは絶対に演奏できない自信がある。良い演奏ばかりだったなあ。

第2部トップバッターがTsukubaSQ。録音が無いのでどんな出来だったかよくわからないのだが、個人的には大きいミスをひとつやらかした。全体的な流れは良かったかな?バッハのマイナーキーの音楽、しかも中間部のメイジャーキーの部分をごそっとカットしてしまったということで、会場をダークなテンションに染め上げてしまったが、次のエスポワールさんの「彼方の光」で浄化されたようだ(爆)。

ラージステージは、客席に出て行く時間がなく、控え室で聴いた。もうね、「ミュージック・フォー・シネマ」がカッコイイんだってば!本多俊之が、サクソフォン五重奏のために自作を再構成した音楽を、19人で演奏してしまうというアイデアもすごいし、もちろん演奏も迫力十分。ソロもカッコよかった!

終演後は打ち上げ!いろんなかたとおしゃべりできて、久々の再会もあって、二次会まで参加させていただいた(笑)。楽しかったなあ!本当にありがとうございました>That'sの皆様。

2010/09/24

フーガの技法をサクソフォンで

5年間放ったらかしにしてあった「フーガの技法」の楽譜について問い合わせを頂戴し、驚いてしまった。そういえば明日はバッハの本番であったなあ、ちょっと久々に聴いてみるか、ということでCDを引っ張り出してきた。

New Century Saxophone Quartet(NCSQ)の、「フーガの技法」だけを収録したCD。NCSQというと、「Drastic Measures」や「Heartbreakers」のような、強烈なビートを持つ作品が似合うけれど、このCDでのNCSQは実に大人しい。楽譜やリズムに忠実であり、さらにヴィブラートも極限まで排除して、音色だけの真っ向勝負というところが凄い。そういえば、このCDはクラシック・サックスのCDの中でも比較的初期にSACDというフォーマットで出てきたアルバムのひとつだった。それだけ気合いを入れていた、ということだろう。Amazonでも購入可能→(The Art of Fugue

録音状態が比較的良く、演奏も一級品。ヴィブラートを取り去った長い伸ばしの音の取り扱いが、時折非常に魅力的に聴こえることもあり、不自然に感じてしまうこともあり…。音色が美しい。純水のような雑味を取り払った音で、4本とも全音域に渡って良くコントロールされている。20トラック77分とだいぶ長いのだが、まったく飽きることなく聴き続けることができる。

曲の構成も面白い。順番に、1,2,3,4,5,13,14,7,8,10,6,9,11,15,12,16(Rectus),16(Inversus),19と並び、19の未完部分を宙に解き放ったあと、最後にコラール"我、悩みの極みにありて BWV641"が演奏される。17は、CDの都合上収録不可能であったとのこと。ちょっと残念だなあ。16の鏡像フーガをちゃんと上下分収録しているのは嬉しかった。

たまに夢想するのだけれど…60歳か70歳か超えてこれ以上四重奏を続けられなくなってきたら、全曲「フーガの技法」の演奏会とかやっても許されるかなあ(笑)。で、最後に未完のフーガ"Contrapunktus XIX"をやって、B-A-C-Hを含めた3つの主題を途中まで展開したその舞台上で解散するのだ。わはは。

プロモーション用の動画はこちら。一見すると「ハーパンでレコーディングに臨むジャズ吹きのおっちゃん達」といった風貌だが、飛び出す音楽は崇高にして高潔。

2010/09/23

TSQ演奏案内:That's Saxophone Philharmonyコンサートにて…

【That's Saxophone Philharmony 第6回アンサンブルコンサート】
日時:9/25(土曜)14:00開演
会場:国立オリンピック記念青少年センター小ホール(小田急線参宮橋駅徒歩10分)
料金:入場無料

That's Saxophone Philharmonyさんにお声がけいただいて、Tsukuba Saxophone Quartetとしてアンサンブルコンサートに出演する。詳細がよくわからないのがもどかしいが、とりあえず土曜の14:00開演です(笑)。ちなみに、エスポワールSOさんの四重奏団体もひとつ出演するそうな。

演奏曲は、このブログでも度々話題にしているJ.S.バッハの「シャコンヌ」。時間の関係上、抜粋の演奏となる。本日も練習だったのだが、本番はどんな演奏ができるだろうか。楽しみだ。

山下洋輔ビッグバンドを聴いた

昨日仕事が終わったあとに、渋谷のオーチャードホールにて山下洋輔ビッグバンドを聴いてきた。実は、一日前までそんなライヴがあるなんてことも知らなくて、かなり突然の予定だった。チケットの都合をしてくれた友人、というか盟友に感謝。それにしてもオーチャードホールの場所は解りづらい!うっかり109を左側に進んでしまったところ、完全に迷って引き返す羽目になった。

会場で友人たちと合流し、ホール内へ。オーチャードホールなんて、いつ以来だろうか。平日の夜ということで満席とはいかなかったみたいだが、2000席を超えるホールが8割から9割の入り。

メンバー:
山下洋輔(pf.)
金子健(bs.)
高橋信之介(drs.)
エリック宮城、佐々木史郎、木幡光邦、高瀬龍一(tp.)
松本治、中川英二郎、片岡雄三、山城純子(tb.)
池田篤、米田裕也、川嶋哲郎、竹野昌邦、小池修(sax.)

わわわ、なんという豪華なメンバー!それぞれのミュージシャンが、大小編成バンドのフロントを張ることができるくらいの豪華布陣だった。全ての作品のアレンジは、松本治氏だったようだ。

セットリスト:
Rockin' Rhythm
All the Things You Are
A Night in Tunisia
Bolero
First Bridge
Memory is a Funny Thing
幻燈辻馬車
Rhapsody in Blue
It Don't Mean a Thing(アンコール)

山下洋輔の演奏は、きちんと聴くのは初めてだ。自分の中では「日本を代表するフリージャズ界の大物ピアニスト」という程度のイメージしかなかった。一番最初に"山下洋輔"という名前に触れたのは、茂木大輔に献呈されたオーボエ無伴奏曲「レディ・ラビットへの手紙」だったかもしれない。実際に聴いてみるとものすごくパワフルな演奏をする方だ。さらに、独特の音運びとか、クラスター奏法のジャズへの応用とか、これぞ山下洋輔!と感じさせるような個性もあって、とても感銘を受けた。ビッグバンドの方も、テクニカルかつ浮遊感があるアレンジであった。特に一曲目など、重心がホールのあちらこちらへと飛び回っているような感覚を覚えた。

「チュニジアの夜」はカッコよかった!この曲だけはコンボバンドでの演奏だったが、川嶋哲郎(ここではソプラノサックス)が吹く吹く!ビッグバンドの中に、こういった小編成のプログラムがあると、爽快なスピード感を感じられる。ちなみに、ビッグバンドのライヴでコンボバンドを取り上げる、というアイデアは、グレン・ミラー楽団(うろ覚え)から引用したものだそうだ。前半最後のボレロ(某氏には"脱臼したボレロ"と絶賛されたそうな)も、なかなかコンテンポラリーというかクロスオーヴァーというか、最初はさすがに驚いたが、最終的には原曲の部分に戻ってくるという、一筋縄ではいかない構成(^^;

後半は、山下洋輔の自作が3曲。アレンジのせいもあるのかもしれないが、かなりキメキメのかっこいい曲。スタンダードナンバーに比べると、比較的原曲に忠実なアレンジなのだろうな(笑)。トリの「ラプソディ・ン・ブルー」は、どんなスタイルなのかなあと思ったら、最初の部分こそオリジナルに忠実な進行だったものの、途中からハチャメチャ、原曲の各セクションをソロによって存分にextendした長大な交響詩、といった趣。おそらく、20分以上は演奏していたんじゃないかな?すごかったなあ。

2010/09/21

先週末の練習

なんだかTwitterがとんでもないことになっているみたい。速攻でJavaScript実行をOFFにして、別クライアントへ避難。

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先週末の練習日記を書いておかねばならない。

土曜日は、東大島文化センターにて四重奏練習。9:00から13:00まで、J.S.バッハの「シャコンヌ」を練習した。2回ほど通すことができたが、半分くらいは体力勝負な部分であり、大変。それから、録音を聴く限りはテンポ設定もやや甘くて、聴いている方としては印象が薄いと感じた。次回の練習が最後、どこまで持っていけるか?

日曜日は、サクソフォニー。ホルストの「第一組曲」第3楽章、「ウェスト・サイド・ストーリー(もちろん著作権はクリア済みとのこと)」、「さくら」、「龍馬伝」などを合奏。「WSS」は、適度な難しさで燃えますね。あ、それから「龍馬伝」も…(これはぜひゆうぽんさんと1stを張りたい)。

練習後は、大学時代の友人に誘われて恵比寿へと移動し、麦酒祭でビールを味わった。その後二次会で伺った某居酒屋の日本酒がまずいことまずいこと…だが、それもまた愉快なり。

2010/09/20

演奏会情報:国立音大サックス科の演奏会

【国立音楽大学サクソフォーン専攻生によるアンサンブル2010】
出演:国立音楽大学サクソフォーン専攻生、フレデリック・ヘムケ(ゲスト)
日時:2010年10月18日(月)18:30開演
会場:府中の森芸術劇場ウィーンホール
料金:全席自由 800円
プログラム:
G.Ligeti - 6 Bagatellen
J.S.Bach - Partita No.6
D.Maslanka - Recitation Book
狭間美帆 - Beyond the Wind
兼松衆 - 委嘱作品(初演)
J.S.Bach - Piano Concerto Mov1
柏原卓之 - Irish Fairy Suite(初演)
問い合わせ:090-3510-7821(代表 織戸祥子)

おなじみ、国立音楽大学のサックス科定期。一昨年伺って、昨年は伺うことができなくて、今年はぜひと思っていたところだった。過去の記事を掘り返してみたところ、コンサートレビューが出てきた。前回伺った時の演奏も良かったので、リゲティやバッハやマスランカや、ラージアンサンブルの委嘱作品となる柏原卓之さんの「アイリッシュ・フェアリー組曲」なども楽しみ。音大の演奏会はいろいろとあるが、たまにプロフェッショナルに肉薄する or 超えるような演奏が出てくることがある。そんなところも大いに期待。

そして、大注目はフレデリック・ヘムケ Frederick Hemke氏のゲスト出演!いまさら説明するまでもないが、パリ国立高等音楽院でマルセル・ミュールのサクソフォンクラスをアメリカ人として初めて卒業し、帰国後は主にノースウェスタン大学の教授として後進を育成した世界的なサクソフォン奏者のひとり。LP時代、そして最近も少し録音があり、私も愛聴している。マスタークラスのため来日するというウワサは聞いていたが、まさかこのコンサートに客演するとは思わなかった。そして、プログラム(F.Ferko - Nebulae)を見る限り、オルガンとの共演ときたもんだ!こちらも楽しみ。

ミュールのライヴ録音 on YouTube

マルセル・ミュールのアメリカツアーの録音は、Andy Jacksonらの働きにより、シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団とのライヴ録音(録音地は不明)、セルマー・アメリカのインディアナ州エルカート工場での録音などが発掘されているが、下記に示す録音は"1958年ユタ大学におけるライヴ"と書かれている。まさか新しく発見されたミュールの録音か!?と思ったのだが、何度も何度も聴き比べてみたところ、どうやらエルカートの録音と同一ソースのようだ(…と、私は思うのだけど)。いちおうAndy Jacksonにもヒアリングをお願いしている。

ただ、Andy Jackson提供のものと比較すると、ピッチや復刻環境がだいぶ違うようで、音像がクリアになり音楽が生き生きと聴こえてくる。50年前にアメリカで響いたサクソフォンの素晴らしい音色をご堪能いただきたい。

イベール - コンチェルティーノ Part1
http://www.youtube.com/watch?v=09zb6nogS-g
イベール - コンチェルティーノ Part2
http://www.youtube.com/watch?v=3ss0pytPMpM

2010/09/18

ギャルド復刻CDレビュー(ディスク2)

昨日の記事の続き。

Disque No.2
Lavagne - Fuite et Mort de Neros (D-11046)
Alfred Bruneau - Messidor (D-19204)
Andre Messager - D'Isoline, ballet suite (D-11083/4)
Nikolai Andreyevich Rimsky-Korsakov - Capriccio espagnol (日本コロムビア J-3286/7)
Andre Messager - Les deux pigeons balet suite (D-11020/1)
Wilhelm Richard Wagner - Prelude du 3e acte de Lohengrin (DFX-148)
Wilhelm Richard Wagner - Marche de tannhauser (DFX-148)
Giacomo Meyerbeer - Marche du couronnement (DF-147)
Hector Berlioz - Marche hongroise (DF-147)
Wolfgang Amadeus Mozart - Marche turque (日本コロムビア J-3210)

ディスク1でこのデュポン楽長とギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の組み合わせの良さを分かったつもりになってはいけない。ディスク2では、それがさらにパワーアップしているのだ。木管セクションの唖然とするほどのアンサンブル能力、サクソルン属を加えることによる魅力的な中音域の輝き、独奏者が奏でる魅力的なソロ、どんなに吹こうとも上品な金管セクション、デュポン楽長の見事な統率力、といったところはそのままに、このユニットがさらに威力を発揮できるプログラムが目白押しとなっている。

ラヴァーニュ「暴君ネロの逃走と死」は、タイトル通りの描写音楽だが、冒頭の滝が落ちるようにせき込んだフレーズから一気に7分間を聴かせてしまう。さりげなく織り込まれるソロ部分に、奏者のセンスを垣間見ることができる。続くブリュノーの「メシドール」は、19世紀に作曲された同名のオペラ音楽からの抜粋。どの部分(何幕何場とか)にあたるのかはよく判らないのだが、まるでコラールのような美しくゆったりした5分ほどの曲で、音色の美しさと変化に惚れ惚れしてしまう。ちなみにこの「メシドール」と、メサジェの「イゾリーヌ」の一部、「ディオニソス」の一部については、今回の復刻が初となるそうだ。

アンドレ・メサジェは19世紀から20世紀前半にかけて活躍したオペラ作曲家。ブリュノー作品といい、メサジェ作品といい、この時代の吹奏楽のレパートリーには、オペラ音楽からの抜粋形式の組曲がたくさん含まれていたのだなあ。舞踏組曲「イゾリーヌ」あまり知らない曲だったのだが、Pavane, Entree d'Isoline, Entree de la 1re danseuse, Seduction, Valseと名付けられた5つの組曲になっており、様々な見せ場も登場して、聴きごたえも十分。

ニコライ・リムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」。日本コロムビアの盤なんだなあ。オーケストラで演奏した時のような、ちょっと上品な感じは身を潜めて、ギャルドが吹奏楽で演奏すると、このようにまさに"カプリツィオ=気まぐれ"な雰囲気が全面に押し出される。楽しい!緻密なアンサンブルの中でオーボエの妙技を披露するプレイヤーは誰だろう。そして、その後に聴かれる、ヴィブラートもかかったようなホルン(コル)の美しいテーマ…。相変わらず鉄壁のフルート~クラリネット~サクソフォンセクション。ハープが加えられたサウンドも美しい。最終部に向けては、各パートが存分に活躍しながら高みへと登っていく。最後の最後など、現代の吹奏楽に聴かれる"超絶技巧"などを鼻の先で吹き飛ばしてしまうほどのスーパー・アンサンブルに恐れ入る。これ、ライヴで聴いたら興奮しただろうなあ。

再びメサジェの「舞踏組曲"二羽の鳩"」。これも、現代の吹奏楽界では、作品としては「知られざる」に分類されるところだと(個人的には)思うが、良い曲なのですよ。Entrée des Tziganes, Scène et pas des deux Pigeons, Danse Hongroise, Theme & Variationsの4曲。どれも親しみやすく粒ぞろいのメロディに溢れていて、気に入ってしまった。。最終曲の主題と変奏では、飛び上がること間違いなし!始めはゆったり…なのだが、徐々に速くなってきて、スネアによって導きだされる13分過ぎの部分からは容赦無きまでの煽り、煽り、煽り!統率するデュポン楽長と、それに応えて完璧に吹ききるギャルドの面々…。一筋縄ではいかない。

最後に置かれた5曲のマーチ、ああ、このトラックの構成はニクイですね。メサジェを大興奮で聴いたあとの、アンコールというわけだ。ちなみに、ワーグナーの「タンホイザー」では、ファンファーレのあとのクラリネットソロは、マルセル・ミュールが代わって担当している(栃木のO様に教えていただいた)。このころのミュールは、すでにヴィブラートのスタイルが確立している。ほんの一瞬だが、実に上品なフレージングを聴かせてくれる。

以上。古いものは、それがただ古いから良いのではなく、その時代に最も輝かしいものを築き上げたものだけが、時代を超えてなお存在感を放つのだと思う。このディスクには、それが確かにあると感じた。全ての管楽器奏者、吹奏楽愛好家、クラシック愛好家におすすめする。

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2010/09/17

ギャルド復刻CDレビュー(ディスク1)

というわけで、ようやくレビュー開始。長くなりそうなので二回に分けることとした。

第6代楽長、ピエール・デュポン Pierre Dupont指揮ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団 Musique de la Garde Républicaine。録音年代は、1927年から1935年となっている。シュミットやパレスなどのオリジナル作品も散見されるが、全体を通して取り上げられている多くは編曲物で、この時代の吹奏楽のレパートリー開拓の方向性が分かるようで、面白い。

Disque No.1
Florent Schmitt - Dionysiques (F.Columbia DFX-137/ D-11012)
Gabriel Pares - Richilde (D-11022/3)
Franz Liszt - Rapsodie hongroise No.2 (DFX-202)
Alexis Emmanuel Chabrier - Espana (D-11019)
Carl Maria Friedrich Ernst von Weber - Invitation a la valse (D-11040)
Franz Liszt - Le preludes (DFX-55/6)
Mehr - Air Varie Sur Un Theme Suisse (D-11041)
Carl Maria Friedrich Ernst von Weber - Freischutz (D-11042)

ディスクを再生してみよう。SP特有のノイズに続いて、ディオニソス冒頭の低音楽器が登場。ノイズは気にならず、むしろその奥から聴こえる音楽に耳が捉えられる。2001年にEMIから20枚一気にリリースされた復刻盤を少しだけ聴いたことがあるが、それらと音質を比較してしまうと、比べものにならない(そういえば、当時の復刻盤には「ディオニソスの祭」も後半部分しか収録されていなかった)。9年の時を経た木下直人さんの研究成果が、ここに実を結んでいることがよく判る。「ディオニソスの祭」は、個人的に好きな吹奏楽オリジナル曲ベスト1であり、ブラン楽長時代にギャルドが来日した折、杉並公会堂でワンテイク録音したものを愛聴していたが、その録音とほとんど変わらない解釈に驚いている。テンポ設定など、ほぼそのままではないか?デュポン楽長時代には、この曲の解釈の完成形が呈示されていたということに、驚きを感じる。ブラン楽長の録音が、ライヴ感にあふれたものだったのに対して、(SP時代とはいえ)きちんとした録音セッションの形を取ったデュポン楽長の録音のほうが、室内楽的な緻密さでは勝るだろう。どちらが良いかは、お好みで…。

二曲目のガブリエル・パレス「リシルド序曲」。これは、ギャルドの第4代楽長だったパレスが、楽団のために作曲した作品なのだそうだ。2つの主題が複雑な綾を成しながら、最後に待ち受ける感動的なクライマックスへと突き進む。「ディオニソスの祭」でも感じたのだが、クラリネットセクションのアンサンブル能力の高さには、まったく恐れ入るばかりである。そこに重なるサクソフォンと、木管群のえも言われぬ響き、けっしてがなり立てることのない金管セクション。冒頭でもクライマックスでもその音質が保たれている。きっと、奏者も指揮者も恐ろしいほどに冷静なんだろうな…。

そして、直後の「ハンガリー狂詩曲」の冒頭で、鳥肌がたつ。SPの違いによるものなのだろうか、とつぜん音像がさらにクリアになるのだ!序奏の部分から、非常にユニークな解釈が散りばめられ、テンポが揺れる揺れる。しかし一糸乱れぬアンサンブル…デュポン楽長の統率力の賜物だろうか。この曲は、各所にソロの部分が設けられているのも聴きものだ。この時代のギャルドを聴く楽しみの一つに、20世紀前半に活躍したフランス管楽器界の名手たちのソロを聴くことができる、というものがある。後半にかけては、ここでもクラリネットセクションが名技を披露するが、合いの手を入れる不思議な音色のセクションにも注目。これがサクソルン属かな?

ちょっと書き終わらなさそうなので、ペースを上げていく(苦笑)。シャブリエとウェーバーの2曲は、普通のオーケストラのバージョンで聴くよりも、引き締まって輝きが凝縮されているように感じる。リハーサルの回数が、おそらく並でないのだろう。細かい部分まで、決してぼやけることなくベクトルの揃った音楽。デュポン楽長は、オーケストラには出せない吹奏楽の魅力を存分に引き出していると思う。例えばこれを現代のオーケストラや吹奏楽の演奏で聴いた時に、どういったところにその団体の個性を出すことができるのだろうか。

リストの交響詩"レ・プレリュード"は、15分という長い時間の録音。こういう曲がSPで聴けるなんて、ちょっと感動モノだ。長時間にわたって集中力の高い音楽が奏でられる。計算しつくされた構造(とは言っても、まだ全部を把握しきれていないが…)により、聴き手は音楽に没頭させられる。もちろん、どんな弱層部分においても安定感は抜群。様々な音色が飛び出し、編曲の手腕の高さも伺わせる。

続く「スイス民謡の主題による変奏曲」は、独奏者…ルネ・ヴェルネイ(cl.)、ウジェーヌ・フォヴォー(tp.)、そしてサクソフォンにマルセル・ミュール(!)らをフィーチャーしたヴィルトゥオジックな一品。サクソフォン的興味として、この時代はまだヴィブラートが研究途中であったミュールが、吹奏楽の中でのヴィブラートの使い方について試行錯誤をしている真っ只中の演奏を聴ける、という点でも貴重だろう。音色は丸く、しかしヴィブラートが妙にちりめん状にかかっており、ちょっと微笑ましいというか、なんというか。ディスク2で聴くことができる「タンホイザー」の録音時には、すでにそのスタイルは確立されている。この2枚組のCDの各所で聴こえてくるサクソフォンの音色は、時代によって少しずつ変化しており、その辺りも聴きどころだろう。

さらにパワーアップしたディスク2のレビューは、明日の続きの記事にて。

2010/09/16

ギャルド復刻CDの復刻環境について

今回、グリーンドア音楽出版から発売されたギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の復刻CDについて、これまでも何度か書いているが、復刻環境をまず説明しておきたい。

復刻技術の全面的な監修を行ったのは、おなじみ木下直人さんである。世界でも指折りの"ギャルド研究家"でありそのコレクションの数には定評がある。単純に音盤のみの収集にとどまらず、その音盤を再生するための装置についても情熱を注ぎ、長期に渡る試行錯誤の末に完成したシステムが、今回の復刻に使用されている。

SP再生装置の中核をなすのが、ピエール・クレマン Pierre ClementのSP用カートリッジ"L5"である。このPierre Clementのシリーズは、1950年代から1960年代にかけて、フランスの主要な放送局やレコード会社で使用されていた。このカートリッジを利用することで、1950年代のフランスで鳴っていた音を忠実に引き出すことができるというわけだ。実は、単純に中古を購入しただけではダメで、ダンパー(針を支えるゴム)が古くなっている状態から工夫して修理を行ない、なんとか利用できる状態へと復帰させたということも伺っている。

ノイズは未処理。こんにち発売されている多くの"復刻盤"と名が付くCDは、ほとんどにデジタルの音響処理が施されていることと思う。確かに、ノイズリダクションの技術は年々進歩しているが、何かしらの処理を加えるということは即ち、原音にも変化が加わってしまうということになる。ダイレクトカッティングされた音で、確かにノイズは多いのだが、それ以上に吹奏楽のその音がはっきりと、クリアに聴こえてくる。

いつだったかこのブログでも書いたが、木下さんが行っているのは、単純に音を取り出すことではなく、当時のAtmosphéreを現代へと蘇らせる…"芸術の復刻"と呼ぶに相応しい仕事だと思う。この素晴らしい復刻を、ぜひ多くの方に聴いていただきたい。CDの詳しいレビューは、また今度。

2010/09/15

ギャルド復刻CDゲット!

9/14発売のギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の復刻CD(グリーンドア音楽出版)だが、本日渋谷のタワレコへ伺ったところ発見!その後は飲み会だったので、帰り着いたのがこんな時間…夜も遅いが、早速聴いている。

まだ聴き始めだが、とにかく素晴らしい復刻であり、音楽であり…こんな吹奏楽のCDが2010年という時代に出版されたことに、大変な嬉しさを感じる。木下直人さん、そしてグリーンドア音楽出版のスタッフに大感謝。

詳しいレビューは、明日以降に行う予定。

2010/09/14

Syrinx SQ "Waves"

今季のパリ国立高等音楽院の第一課程に、もう一人日本人で井上ハルカさんという方が合格したそうだ。ESA音楽院を経てリヨン音楽院に留学し、ジャン=ドニ・ミシャ氏に師事したという経歴を持つ。日本人の第一課程への合格は、白石奈緒美さん以来となる。めでたい!

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先日紹介したSyrinx Saxophone QuartetのCDをレビューする。おそらく、この団体唯一のCDであり、Syrinx SQの発足10周年を記念して制作されたものだ。現在では流通している在庫はそれほど多くないはずだが、リンク先のAmazonや、Amazon.comではまだ入手可能なようだ。とは言え、発売は1994年。入手可能なうちにゲットされることをおすすめする。プログラムは以下のとおり。フローラン・シュミットの「サクソフォン四重奏曲」以外は、作曲家の名前すら聞いたことのない作品ばかりだ。

「Waves(Erasmus WVH164)」
Caroline Ansink - Waves
Florent Schmitt - Quatuor, op.102
Tera de Marez Oyens - Recurring thoughts of a haunted traveller
Calliope Tsoupaki - Music for Saxophones
Geert van Keulen - Kwartet
Elena Firsova - Night

まず最初に断りを入れておこう。もしこれから先、私が「シュミットの四重奏曲で、一番素晴らしいと思う録音はどの団体の演奏ですか?」と訊かれたとしたら、間違いなくこのSyrinx Saxophone Quartetの録音を推す。ここに収録されているシュミットの録音は、数ある名録音の中でも白眉…サクソフォン・コンセンタスや、アクソン四重奏団といった団体の演奏よりも、さらに未来の演奏だと感じる。しかも、1994年という時代にあって!

知的でスタイリッシュ、テクニックも申し分なく、各所に適度な自己主張を感じさせながら、全曲を14分ちょっと(爆速!)で駆け抜けてみせている。第一楽章のフーガが激烈に絡み合ったあとに、最後はその大きな波が引いて祈りを捧げるように終わっていくが、その和音の伸ばしの実に美しいこと!録音で、こんなに美しく聴かせることができるのか。第2楽章は、信じられないほどに統制の取れたシンコペーションのアクセントが印象に残る。第3楽章は、ヴィブラートを丁寧にコントロールしながら、楽章の中に知的な構造を浮かび上がらせているし、第4楽章に至っては世界最高速の3分39秒。さすがに細かいところを摘みとっていけば、微妙に音が潰れたりしている部分もあるが、この興奮には取って換えることはできまい。

…と、シュミットばかり書いてしまったが、他の同時代の作品群も素晴らしく完成度が高い。まるでエルッキ=スヴェン・トゥールの「哀歌」を思い起こさせるような「Waves」は、前半と後半は凪、そして中間部は嵐を表しているかのよう。中間部でのガツガツしたテンションを録音で聴くことができるとは、うれしい誤算である。「Recurring thoughts of a haunted traveller」は、声楽のソプラノとサクソフォン四重奏のための曲だが、これはぜひライナーノーツの解説を読んでいただきたい。不思議な楽章のタイトルに、不思議な歌詞、不思議な響き。実演で聴いても面白そうだ。

「Music for Saxophones」「Kwartet」は、どちらも現代風の四重奏曲だが、特に「Music for Saxophones」に耳が引かれた。響きは確かに現代風なのだが、まるで雅楽のような音運びだ。前半には各プレイヤーが大見得を切る部分もあり、その無伴奏部分の充実度にも驚いた。最後の「Nights」は、再びソプラノとサクソフォン四重奏のための作品。

なんだか、ひとつのCDに懸ける気合いの大きさが伝わってくるようだ。21世紀になって発売されているCDの数はぐっと増えたけれど、その分ひとつひとつの音楽的充実度は変わってきているのかなあ、なんてことまで思ってしまったのであった。

2010/09/13

井上麻子×松尾俊介@ドルチェ東京

【井上麻子×松尾俊介 Saxophone x Guitar Concert】
出演:井上麻子(sax.)、松尾俊介(gt.)
日時:2010年9月12日(日)15:00開演
会場:ドルチェ楽器アーティストサロン東京
入場料:2,500円(前売り2,000円)
プログラム:
John Dowland - Three Dances (ssax, guitar)
Eberhard Werdin - Vier Bagatellen (asax, guitar)
Manuel Maria Ponce - Tres canciones polulaires Mexicanas (guitar)
Eugène Bozza - Trois Pièces (ssax, guitar)
Bartók Béla Viktor János - Jocuri poporale Romanesti (ssax, guitar)
Nuccio d'Angelo - Introduzione e Aria (ssax, guitar)
Heitor Villa Lobos - Bachianas Brasileiras no.5 "Aria" (asax, guitar)
Heitor Villa Lobos - Modinha (asax, guitar)
Manuel de Falla - Siete Canciones populares Espanolas (ssax, guitar)

9/12、しらこばと音楽団の本番の後にJRへ飛び乗り(南浦和駅での乗り換え!)、一路新宿へ。井上麻子さんの演奏をライヴで聴くのは、実に3年ぶり。初めて聴いたのは2007年暮れのフェスで聴いたピエール・ジョドロフスキ「Mixtion」だったが、音響サイドの様々な不調にも関わらず、独奏者として大変に素晴らしい演奏を繰り広げ、感動したものだ。この日のプログラムはその時のプログラムとは全く違うが、とても楽しみにして伺った。それにしても、このプログラム!半分以上知らない。バロック系、トランス物はなんとなく想像がついたのだが、驚いたのはオリジナル作品が含まれていたこと!

到着は開演3分前(危ない危ない…)。ステージ上には小型のギターアンプが。さすがにサクソフォンとギターではバランスを取りづらいだろうから、その調整用だろうか?

一曲目は、バロックよりも以前の古楽作品。もともとはリュートとソロ楽器のために書かれたそうな。この曲の2曲目"Lachrimae Pavan"で、サクソフォンとギター、それぞれのあまりの音色の美しさに震えた。小さい会場の隅々まで、どんな隙間までにも沁み渡るような上質のソプラノ・サクソフォン、そして、瞬間瞬間に音色を変えてゆくギター。メロディの美しさも相まって、この作品を聴けただけでも、来た価値があると思った。MCを挟みながらの演奏。お二人は、パリ国立高等音楽院で同期だったとのこと。在学中より、室内楽として活動を行っていたとのこと。…MCで微妙に笑いを取りに入るのは、これは関西のデュオだからなのか、それとも井上麻子さんだからなのか(笑)。

二曲目は、ソロ楽器にヴィオラ、クラリネット、アルトサクソフォンのいずれか、という指定があるものの、れっきとしたオリジナル作品なのだそうだ。ちょっと現代風で、聴きやすい部分も、スリリングな部分もあって、好みの曲想。井上麻子さんのアルトサクソフォンの音も素敵だなあ。低音も危なげなくスルリと安定して、他の音域と同じ音量で演奏してしまうので、サックスという楽器に対する先入観からすると、まるで肩透かしをくらったような気分になる(笑)

ポンセはギターソロ。楽章間でもチューニングを行うのは珍しい光景だと感じたのだが、ギターだと普通なのかな?プログラムに追加されたエストレリータという作品が、妙に印象に残っている。ボザは、フルートとギターのための作品。第3楽章でちょっとテクニカルな印象になるのは、ボザっぽいなあ。

後半は、どれも特徴的なプログラムで印象深かった。バルトーク、ファリャの、サクソフォン×ギターという組み合わせはもちろん初めて聴いたのだが、他の様々な編成で聴くよりも、ずっと"それらしい"音がして、面白い。どちらの楽器も、そもそも持っている性格がプリミティブなのだ。民族音楽をベースにした曲を奏でたとき、面白くないはずがない。

ヌッチオ・ダンジェロは、イタリアのギタリストなのだそうだ。「序奏とアリア」はオリジナルはヴァイオリンとギター。この曲が本日中最もシリアスな響きがしていたが、とても面白くて、特に「序奏」の超ハイテンションのバトルには感銘を受けた。YouTube上で作曲者本人の演奏映像を見つけることができる。続くヴィラ=ロボスはアルトサクソフォンでの演奏。これもまた美しかったなあ。"アリア"は有名だが、"モディーニャ"も声楽作品である。

日曜の昼下がりに素敵な演奏の数々。贅沢な時間を過ごすことができた。今度は、また違った編成で聴いてみたいなー。

リレー・フォー・ライフ2010 in 埼玉

9/12に、"リレー・フォー・ライフ2010 in 埼玉"というイベントで、しらこばと音楽団のメンバーとして演奏してきた。このイベントは、がん患者・サバイバー・その家族・支援団体の方々が、24時間リレーしながらトラックを歩き、がんに対する支援を呼びかけるというもの。歩いている方の中には、がんから復帰された方もおり、再発の不安と闘いながらも、日々を活き活きと生活されているんだなあと感じ入った(ちょっと人事とは思えない)。

今回のしらこばと音楽団メンバーは、ねぇ。さん(ssax,asax)、ニジマスさん(asax)、mckenさん(bsax)、やまーさん(perc)、kuri(tsax)。東浦和駅に集合したのち、mckenさんの車に便乗して会場の「農業者トレーニングセンター緑の広場」へと向かった。数日前の涼しさもどこへやら、真夏日で汗だく。イベント参加のみなさんは、土曜日の午後13:00頃から歩いているわけで、9月中旬にしてはかなり大変だったはず。

午前中に、隣接する農業者トレーニングセンターにて音出しを行ない、12:00から本番。

こんな演奏会場。肝心の演奏中の写真は撮り忘れてしまった。炎天下とはいえ、思ったよりも厚くなかったのは、広場全体が草で覆われていたせいだろうか。…なんてのんきなことを考えていたのだが、さすがにステージ上は暑い!どんどんと集中力が削がれて、なんとか最後までたどり着いたときには、ヘロヘロだった(汗)。

メインセットリスト:
"崖の上のポニョ"メインテーマ
世界に一つだけの花
時の流れに身をまかせ
ふるさと
"太陽にほえろ"のテーマ

ラストウォークに合わせての演奏:
勇気100%
"名探偵コナン"のテーマ
"となりのトトロ"よりさんぽ、となりのトトロ

クロージングの合唱伴奏:
手のひらを太陽に

とは言え、やっぱり本番を踏むのは楽しいな。こういう機会でもどんどん演奏したい!関係者の皆様、お疲れ様でした。

2010/09/11

Syrinx Saxophone Quartet

mckenさんのページ内部をふらふらとネットサーフィン(死語?)していたところ、面白そうなCDがあったので、amazon.comで探して購入してみた。最近の音楽成分はもっぱらNaxos Music Libraryに頼りきりであるので、ちょっと思い返したところ、実はCDを買うのは久々となる。

今日の記事ではこの団体について紹介し、次回の記事でCDのレビュー行う。現代作品が多いため、CDを噛み砕くのにやや時間が必要…。

Syrinx Saxophone Quartet。おそらく日本ではほとんど知られていない団体である。1984年に、オランダ・アムステルダムのスヴェーリンク音楽院で学んでいた女性ばかり4人で結成されたサクソフォン四重奏団で、先ずはアムステルダムを中心に、そして徐々に活躍の場を世界へと広げていったそうだ。女性ばかりのサクソフォン四重奏団といえば、スウェーデンのRollin' Phones Saxophone Quartet(使用楽器が全員クランポン!)や、イギリスのFairer Sax(そんな名前付けなくても…)、そして我が日本でもNoyer Saxophone Quartetが思い出されるが、Syrinx SQはレパートリー開拓に貪欲で、現代作品の委嘱を積極的に行なっていたというあたり、他の団体と一線を画しているなと思う。

Ati Lust, saxophone soprano
Harmke Bijlsma, saxophone alto
Monique Udo, saxophone ténor
Sieuwke van Berkum, saxophone baryton

Tera de Marez Oyensという人物が著したSyrinx SQの経歴を、ざっと書き写してみよう:
結成後、1986年にイスラエルのBeershevaで開かれたInternational Women's Music Festivalにおいて国際デビュー。続いて西ドイツ、イギリス、スイス、フランスでも演奏を行った。オランダ国内でも、TV出演、コンセルトヘボウにおける演奏など、アクティブに活動していた。
結成初期のことから、特に同時代の音楽を積極的に取り上げた。数多くの世界初演を行ない、そのうちのいくつかの作品はSyrinx SQに献呈されている。この四重奏団が結成されてから10年が経過したが、常に素晴らしい作品が献呈されている。その理由は、この四重奏団が高いレベルを保ち続け、名声を獲得しているからにほかならない。新しい作品(時に非常に高難易度である)へと取り組むことは、常に演奏者にとっても聴衆にとっても刺激的なことだ。
このCDは、アンサンブルの10周年を記念して制作された。言うまでもないが、Syrinx SQはここで、サクソフォンという楽器について、真にプロフェッショナルな演奏を創りだすことに成功している。さらにこの4人の演奏家は、サクソフォンから極めて美しい音色を放ち、さらに密接な協力関係により、まるでひとつの楽器のような演奏を創りだすことに成功している。この才能に恵まれた"とんでもない"四重奏団の、次の十年の活動を楽しみにしていたい。

…ここには「次の十年」と書かれているが、最近の活動状況については不明である(オランダ在住のどなたか、ご存じないでしょうか?)。CDを聴く限り、非常に素晴らしい演奏をする団体であり、もし解散してしまっているのだとしたらとても残念だ。そもそも、このCD自体1994年の録音であるから、もう15年以上も前なのか。

とにもかくにもCDは素晴らしいので、次回レビューをお楽しみに。

2010/09/10

演奏会情報:井上麻子さん@ドルチェ東京

安井寛絵さんが、パリ国立高等音楽院の修士課程に合格したという話を耳にした。伊藤あさぎさんに続いて、二人目の快挙となる。本当にすばらしい!おめでとうございます。

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同じ、パリ国立高等音楽院つながりで…。

【井上麻子×松尾俊介~Saxophone×Guitar Concert~】
日時:2010年9月12日(日)15:00開演
会場:ドルチェ楽器アーティストサロン東京
入場料:2,500円(前売り2,000円)
プログラム:
ダウランド - 3つの舞曲
ヴェルディン - 4つのバガテル
E.ボザ - 3つの小品
M.デ・ファリャ - 『7つのスペイン民謡』より
B.バルトーク - ルーマニア民俗舞曲

関西を中心に大いに活躍されている井上麻子さんが、久々に東京でのリサイタルを開く。サクソフォンとギター、という編成で、ちょっと風合いの違うプログラム。なかなか素敵な演奏会になりそうだ!ご本人のブログには、プロモーション用のサウンドクリップまで用意されていて、聴くほどに期待が高まる。

私も、ぜひ伺おうと思っている。ただ、この日は12:00過ぎまで埼玉で本番&18:00からまた埼玉で練習。とても忙しい一日になりそうだ(笑)。

2010/09/08

デュポン楽長時代のギャルド復刻CD発売情報

以前取り上げたピエール・デュポン指揮ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のCDだが、発売が目前に迫っている。

【2010/9/14】だそうです。

すでにグリーンドア音楽出版のサイトでも詳細を確認することができ、HMVTowerRecordsなどでも予約が開始されている(それぞれ商品のページに直接リンクします)。

音盤提供・復刻・監修を一手に引き受けた木下直人氏、そしてプロトタイプ盤を耳にしたという栃木県のO氏御両名から、今回のリリースが非常に稀有なこと、記録された音楽が素晴らしいこと、復刻がもの凄い仕事だということなど、いろいろと伺っている。本当に楽しみだ!木下直人氏は、今年のギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団来日時に、ブーランジェ楽長にこのCDを直接手渡す計画があるそうな。

吹奏楽という枠組みを越えて、いろいろな方に聴いてほしいなあ…。マイナーレーベルゆえ、在庫切れしてしまえば再プレスの可能性は低い。発売後、速攻で入手されることをおすすめする次第。

ミュール→デファイエ→ドゥラングル:四重奏録音

この歴代パリ国立高等音楽院の教授陣は、四重奏も共通の録音を残している。ミュールとデファイエは長きに渡って四重奏の活動を積極的に行ったが、ドゥラングル教授に関しては、Quatuor Adolphe Saxの活動期間が比較的短かったのが残念だ。そんなわけで、ミュールとデファイエが共通で取り上げた作品は多いのだが、ドゥラングル教授も…となると少ない。

G.ピエルネ - 民謡風ロンドの主題による序奏と変奏
ミュール:Gramophone L1033
ミュール:Erato STU 70306
デファイエ:EMI
ドゥラングル:Vandoren 001

ミュールの旧録音(Gramophone)は、"1936年のディスク大賞受賞作"というタグが付けられることが多いが、この"ディスク大賞"というものの詳細な実態がいまいち良く判らない。レーベルの賞なのか、何か国家的な賞なのか、気になるな…。デファイエの録音は、エレガントそのもの。ドゥラングルの録音は、シュミットとともにいぶし銀なイメージ。

F.シュミット - 四重奏曲作品102
ミュール:Decca LX3135
デファイエ:EMI
ドゥラングル:Vandoren 001

いずれの録音もCDへ復刻されており、入手はしやすいはずだ。ミュールの録音は、やや時代を感じるものの、技術的にはかなりのレベル。解釈として完成しきっていないのは、まだまだ後続の名演を期待できるという点で幸いだったかもしれない(これがデザンクロだと、もう完成形が呈示されてしてしまっているものだから…)。三世代の移り変わりが、一番良くわかる録音だと思う。

2010/09/07

ミュール→デファイエ→ドゥラングル:ソロ録音

ミュール、デファイエ、ドゥラングルは、言わずと知れたパリ国立高等音楽院の歴代教授陣だが、3人全員が録音を残している曲はなにがあるかなあ、と調べてみた。3つを並べて聴くことで、フランスにおけるサクソフォンの演奏スタイルの変遷を聴きとることができそうだ。

J.イベール - コンチェルティーノ・ダ・カメラ
ミュール:Gramophone DB 5062/63 フィリップ・ゴーベール指揮パリ音楽院管弦楽団
ミュール:EMI 85240 マニュエル・ロザンタール指揮パリ・フィルハーモニア管弦楽団
ミュール:型番なし シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団(ライヴ)
デファイエ:Epic LC3478 ジャン・フルネ指揮コンセール・ラムルー管弦楽団
ドゥラングル:BIS CD-1357 ラン・シュイ指揮シンガポール交響楽団

なんと言ってもミュールの最初の録音だろう。オケとやや噛み合わないながらも、天才的な閃きと勢いに充ち満ちている。引退直前のライヴ録音にも注目。ドゥラングルの録音は、言わずと知れた"楽譜通り"。初めて聴いたときは、飛び上がるほど驚いた。

C.ドビュッシー - ラプソディ
ミュール:EMI 85240 マニュエル・ロザンタール指揮パリ・フィルハーモニア管弦楽団
デファイエ:Erato STU70719 マリウス・コンスタン指揮フランス国立放送管弦楽団
ドゥラングル:Erato 5TU71400 アルミン・ジョルダン指揮モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団

ドビュッシーについては、やはりデファイエの録音が突出していると思う。オーケストラの管楽器の扱い方も絶妙。ミュールはソロは良いのだが、オーケストラがやや力不足。

P.モーリス - プロヴァンスの風景
ミュール:Decca LXT5221 Solange Robin (pf.)
デファイエ:Fidelio ? Jacqueline Dussol (pf.)
ドゥラングル:BIS CD-1130 Odile Delangle (pf.)

いずれも名演。ミュールの、ヴィブラートをバリバリかけながらもハイスピードかつスタイリッシュな演奏は見事。デファイエの録音はあまり知られていないだろうか?

全部で3曲か。何か忘れている気がするが…。トマジ「協奏曲」は、ミュールが第2楽章"ジラシオン"だけ録音しているものの、編成が違うこともあり割愛した。グラズノフに関しては、いずれの奏者も録音を残していないのはやや奇異に映る(ミュールは、ピアノとのデュエットのライヴ録音を残している)。

2010/09/06

舞踏とサクソフォン on YouTube

舞踏とサクソフォンの共演は、最近のサックス界ではそれほど珍しくなくなったものの、それでも実演に接する機会は少ないと思う。たとえば、サクソフォンとピアノが一緒に演奏するような感覚で、サクソフォンと舞踏が共演…というように、演奏者にとって敷居の低いものになってくれれば、観る機会も増えるのかなあ、などと思う。

国内では、なんといっても大石将紀氏が積極的に活動している。私も何度か拝見したことがあるが、YouTubeでもそのパフォーマンスの一部を楽しむことができる。

本間祥公とのコラボレーション。前半は、ブリテンとヴィラ=ロボスの"ブラジル風バッハ"をソプラノサクソフォンで。ブリテンの軽やかな音色に合わせて始まったと思ったら、次のアリアでは一転しなやかな動き。後半は、完全な即興だろうか?なんとなく、野田燎の作品にも聴こえるのだが…(まあ、あれもそもそも「Improvisation」というタイトルだったっけ)


保坂一平の「蛹化の女」ハイライト。なつかしいなあ、これ2年前に門仲天井ホールまで出かけて、トンデモない衝撃を受けて帰ってきたのだった。全編観られないのが惜しいし、このパフォーマンスはその空間で楽しんでこそなのだが…やっぱり一度観たことがあると、あの感動が蘇る、という感じ。サクソフォンは、前半がバッハ、後半が完全即興(エフェクター使用)。最後は、戸川純の「蛹化の女」を聴くことができる。


そのほか、保坂一平氏&大石将紀氏周辺のパフォーマンスとしては、YouTubeに大量にアップロードされているYAMATONATTOのパフォーマンスは外せまい。興味を持たれた方は、ぜひ「YAMATONATTO」で検索を。個人的には、こちらの先鋭性というか、実験性というか、そんなエキセントリックな感じも「蛹化の女」に負けず劣らず好きです。

2010/09/05

バッハと、バーレスクと…

土曜日はTsukuba Saxophone Quartetで練習。「シャコンヌ」は、フィンガリング的にやっかいな部分も多いが、前半のゆっくりな部分や、クライマックスとなったところを、どのように聴かせるかも難しい。アレンジは、ブゾーニ→伊藤康英先生両名の手を経ただけあって、濃厚かつロマンティック。噛めば噛むほどよい演奏になるだろう。残された時間は少なく、その中で出来る限りのことをやるまでだ。

今日は、東京JAZZの生中継をNHK-FMで聴きながら(今も聴いてる)プラネルの「バーレスク」をさらった。いろんな録音を聴いたことがあるが、実際に吹くのは初めてで思ったよりも難しい譜面に苦戦。ただ、さらいかたがわからない"不可能系譜面"ではないので、もう少し慣れれば大丈夫かなと思う。次の合せまでに、もう少しテンポを上げて読んでおきたいなあ。あ、バッハももう一度さらわなければ。

聴く方の話をすると、「バーレスク」、やっぱ好きなのはEMIレーベルに吹き込まれたデファイエ四重奏団の演奏だな…超スピード&上手すぎて参考にはならないが。同じバリトンサクソフォン奏者のジャン・ルデュー氏が参加した、ルデュー四重奏団も、まるで21世紀に録音されたCDとは思えないほどの味わい深い演奏。日本のアルモやトルヴェールも楽しげで素敵。…と、ここまで考えてそれ以上思い出せなくなってしまった。他にはあまり印象深い演奏はなかったような。

HDR?

ハイダイナミックレンジ画像(HDR画像)という言葉とその意味を知って、なんとなく現代のクラシック音楽の録音に通じるものがあるのかなあ、などと思った。HDR画像とは、画像に写っているオブジェクトごとに最適な露出を選択して、画像全体の美しさを演出するものである。ここに貼った写真のように、暗い部分は黒ツブレせず、明るい部分は白飛びせず、という見事な写真が出来上がる。ハイダイナミックレンジ画像は、パッと見たところでは美しく見えるのだが、細部を眺めた後にぐっと視点を引いてみると、妙な違和感に気づく。本来は脳で補正されているものが、最初から眼前に提示されてしまっているのである。

これって、オーケストラの回りに何十本ものマイクを立てて、大きなミキシングコンソールを使いながら各楽器のバランスを最適に調整して、さらにミスは徹底的に切り貼りをして…というようにマスタ音源を作っていく作業と同じだ。この作業は、現代の録音では当たり前のことだろう。

均整の取れたもの、美しいもの、綺麗なもの、売れるものを求めていけば、ポストプロダクションの部分にお金と時間と手間をかける、という方向へ向かっていくのは致し方ないのだろうが、そんな世の中の流れにおいても、見かけに騙されず、元のまま、ありのままを捉えようと努力することも、消費者にとっては大切なことなのかもしれない。

2010/09/03

Ensemble Squillante plays Masive Haka

Ensemble Squillanteは、フランスのラージアンサンブル団体。パリ国立高等音楽院のドゥラングル・クラス卒業生で結成され、10重奏くらいの編成では世界最高クラスの上手さを誇る団体である。

で、いままでのイメージだと、バロック作品あたりをスマートに美しく吹く…というイメージだったのだが、この動画を観て驚いた。

Jean Denis Michat - Masive Haka


和太鼓集団か、打楽器アンサンブル集団(水野修孝の"鼓"とか)かと思った(笑)。

オープニングキャプションも派手だが、いざ曲が始まると、そのテンションに驚いてしまう。なんだか「魂の叫びを聴け!!」という感じだ。作曲者が、あのJean Denis Michatだ、ということにも、またまた驚き。こんな曲を書いていたのか…たしかに、勢いだけでなく妙に難しいフレーズなども聴こえてきて、現代の作品らしさがあるなあ。

中間部で一旦落ち着くが、最後の1分間は怒涛のあおり。もう振付とか即興でしょ!終演後は、拍手喝采&スタンディング・オベイション。ライヴで観たら感動するだろうなあ。

2010/09/02

大室勇一氏のBJ記事

本日発表された新型のiPod nanoはなかなか素敵だと思う。iriver clix2以来、惹かれるデザインの携帯音楽プレーヤーは無かったが、久々にビビビと来た感じ。

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兵庫県にお住まいのT様より、大室勇一氏のバンドジャーナル記事を中心にを送っていただいた。いくつか音源を送ったお礼にということだったのだが、かえってお世話になってしまい恐縮である。記事のリストは、以下。

1972.6月号:アンサンブル活動の意義(大室勇一)
1972.8月号:音楽表現のための管楽器奏法(内山洋、大石清、大室勇一、福井功)
1972.11月号:音楽的にバランスのとれた指導者教育を(大室勇一)
1973.1月号:サクソフォーンの真の音を求めて(大室勇一)
1973.6月号:レッスン拝見(阪口新)
1973.10月号:音色の追求 サクソフォーンの音色(石渡悠史)
1977.4月号:ヤングアーティスト interview(前沢文敬)
1978.5月号:イーストマンウィンド・アンサンブルの思い出(大室勇一)

大室勇一氏の記事の他、阪口新氏、石渡悠史氏、前沢文敬氏の記事があり、どれもが大変興味深い内容である。しかしやはり、読み応えがあるのは大室勇一氏の記事か。特に、吹奏楽の発展に関する大室氏の考えが随所に現れているのが不思議だったがイーストマンWEの来日に合わせて書かれたという「思い出」の記事を読んで納得。「私が留学先としてイーストマンを選んだ理由の一つは、ウィンド・アンサンブルで吹くことにあった」…なんと!!「クラシカル・サクソフォン」という切り口だけでなく、吹奏楽という切り口からもサクソフォン界を俯瞰していたのだなあ。

他にも、興味深い記事がたくさん。ちなみに、サクソフォーンの真の音を求めてについては、雲井雅人サックス四重奏団のサイト内で読むことができる。

ユージン・ルソー氏の門下生(インディアナ大学卒業)としても有名な前沢文敬氏のインタビュー記事は、若さと勢いに溢れていて、一気に読めてしまう内容だった。演奏についてのアメリカでの経験から学んだこと、というくだりを引用しておこう。

英語でプレイ・アウトという言葉がありますが、私自身このことを何度も言われました。これは自分の外へ吹けということです。「音を出せ、中途半端なmfでなく、mfならmfの音を意識して出せ」ということなのです。そして全部の音に自分の意識を向けろということです。彼らはffはその楽器が全て鳴ったあとに(出せたあとに)いわゆる良い意味でのffの演奏が可能だろいう考え方があります。これはサクソフォーンに限らず演奏上の大切なポイントです、荒っぽい、という人もいますが、それは違います。広い音のレベルがあってはじめて、その中でいろいろなことが表現できます。

2010/09/01

ルソー氏の新譜

ユージン・ルソー Eugene Rousseau氏と言えばアメリカを代表するサクソフォン奏者のひとりとして名高いが、80才近くなった今でも積極的な演奏活動を展開しているそうだ。その様子は、YouTubeなどでも伝わってきたが(→こちら。わりと最近の演奏姿で、しかも吹いているのがフェルドの「ソナタ」!)、ライヴやマスタークラス活動だけでなく今度はCDのレコーディングを行ってしまったそうだ。

詳細はこちらのページからどうぞ。

取り上げた作品は、ブラームスのクラリネットソナタ1&2と、クラリネット三重奏曲(ピアノ、クラリネット、チェロ)作品114。想像しただけでヨダレがでそうなプログラムだが、ルソー氏ならばきっと想像を超えた素敵な演奏になることだろう。クレジットカードさえあれば、上記ページから購入できるので、ぜひどうぞ。

最後に、上記リンク先の解説を簡単に訳してみよう。

このCDには、ヨハネス・ブラームスの「クラリネット・ソナタ第1番」と「第2番」、そして「トリオ作品114」が収録されている。だが、クラリネットのかわりに、ユージン・ルソー氏はサクソフォンを用いてこの作品に取り組んでいる。ルソー氏は、サクソフォンの優れた活用法の一つが、この曲を吹くことであると論じている。素晴らしく豊かな和声のパレットを持ち、音が分厚く織り込まれたブラームス作品のスコアは、ロマン的な語法もあいまって、サクソフォンに非常にマッチすると、ルソー氏は言う。またルソー氏は、この曲へ取り組むことはサクソフォン奏者にとって非常にチャレンジングなことであると言っている。低音においてもごく小音量で演奏するスキル、また音域の上限についても拡張が必要である…大変難しいが、この音楽の素晴らしさを考えると、努力する価値というものは必ずあるだろう。共演のピアニストは、Jaromir Klepac、チェリストはMichal Kankaである。